大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)1935号 判決
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【判旨】
(一) 治療費
(1) <証拠>によれば、原告は、本件事故による傷害治療のため、昭和五八年三月七日から昭和五九年四月二〇日までうすき病院において入・通院治療を受け、右治療費として同病院より合計四五六万九、〇七五円の請求を受けていることが認められる。
(2) しかしながら、<証拠>によれば、原告は昭和四八年ごろ追突事故に遭遇し、春日外科病院において約一か月間の通院治療を受けたこと、原告は、本件事故により事故当日の昭和五八年三月六日春日外科病院で診察を受けたが、その際には頸部に運動制限なく、手足のシビレ感もなく、頸、項部に圧痛もなかつたことから、項部に湿布治療を受けたのみでその日は帰宅したこと、翌日、原告はうすき病院へ行き、頭重感、両上肢倦怠感、嘔気、夜間不眠、項部つつぱり、腰痛、耳鳴、手指のしびれ感を訴えたところ、同病院医師は、入院治療の方が早期に治癒するとの助言をして原告に入院を勧め、原告もこれを受けて同日以降昭和五八年六月六日まで入院し治療を受けたこと、ところが、同病院医師作成の同日付診断書には「頸部損傷により向後約一週間の安静加療を要する」旨の記載がなされているにすぎないこと、原告は、うすき病院への入院の際の問診で糖尿病の既往症があることを申しでており、従つて、同病院では入院中も糖尿病への投薬治療を行ない、かつ、同年五月一〇日からは糖ぬき食餌が行なわれていたこと、同病院におけるレントゲン検査の結果、原告には頸椎骨第四、第五、第六間に変形が、第五、第六間に後縁がそれぞれ認められたものの、右変形などは本件事故以前より存在する既存の体質的素因であることが明らかであつたこと、原告のうすき病院への入・通院時の主訴も眼科的訴えが多く、胸部圧迫など不定愁訴が主たるものであつて、頸椎骨の変形に多くみられる手足のしびれ等の神経症状はあまり訴えていないこと、うすき病院における治療の経緯をみると、入院時の昭和五八年三月七日より同年五月一一日までの間、および同月一三日、同月一六日、同月一八日には5%キシリット(糖尿病用糖剤)、ネオラミン3B(混合ビタミン剤)、ケベラG(アレルギー疾患用剤)、ビタミン、ノイロトロピン(神経鎮静剤)、セルリール(組織呼吸賦活剤)及びカシロン(神経痛リウマチ用剤)またはシチコリン(意識障害用剤)を点滴注射し、その後の入院中及び実通院時には毎回二〇%キシリトール(糖尿病用糖剤)、コカルボキシラーゼ(ビタミンB1誘導体製剤)、ノイロトロピン(神経鎮静剤)、セルリール(組織呼吸賦活剤)、シトリンS(意識障害用剤)を静脈注射し、投薬として、ホパテ(精神神経用剤)、メクロサート(頭部外傷後遺症用剤)、カリレチン(循環系ホルモン剤)、ハイゼット(更年期障害用剤)などを毎日のように服用させ、その他屯服としてクリアミンA錠(偏頭痛用剤)、セルシン錠(精神神経用剤)、ラボナ錠(催眠鎮静剤)、を、外用として坐薬(外用消炎鎮痛剤)、点眼液を投薬しており、頸椎けん引療法は昭和五八年四月二日以降入院中は毎日、通院時毎回行なつていること、ところが、退院時における原告の症状をみると、少なくとも主訴に関しては入院時と変化はないこと、うすき病院では、健保基準に従つた点数に対し、一点単価を二五円として計算し、健保単価(一点単価一〇円)の約2.5倍として計算していること、うすき病院医師は原告の病状につき昭和五九年夏ごろまでにはすでに症状固定していると判断しながら、本件訴訟が係属していることを理由に後遺障害診断書を発行しない旨明言していること、以上の事実が認められ、右事実によれば、うすき病院医師が早期治療のため原告を入院させたことを、あながち不当なものとはいえないものの、入院期間は三か月にもわたつており、入院中は鎮静神経剤などを、点滴注射のみならず、投薬、坐薬、屯服としても投与し、原告退院後も同様の静脈注射、投薬がなされているのであつて、右事実によれば、原告の如く、頸椎骨の変形、彎曲とは異なつた頸部捻挫による主訴が中心の神経症状患者に対する治療としては、治療内容、治療経過の点において特異というほかなく、うすき病院医師が自ら作成した入院時の診断書の内容に比しても、また、急性症状が過ぎるまでの約一か月間は入院を必要としても、三か月という入院期間は長期に過ぎ、治療内容も、入院当初から神経症状のみならず、心因的要素の強い自律神経失調症状に対する予防的治療も多くなされ、その数量も大量投与と評価されてもやむを得ないほどの注射、投薬治療がなされていることが認められ、右の如き治療方針が原告の心因的症状を増悪させ、治療期間を長期化させたものと推認されうるのであつて、その他、原告の入院治療の必要性が早期治療のためであつたという入院時の状況、原告の症状が主訴を中心とした神経症状であつたという症状、うすき病院における治療も、特に入院治療まで行なつたのに、さしたる症状の改善がみられなかつたという結果等諸般の事情を考慮すれば、証拠上、原告に対するうすき病院の治療方法を全く否定することはできないものの、その治療費としては、健保基準の約1.5倍にあたる一点一五円と換算した金員とするのが相当である(参照大阪地判昭和四五年六月一八日交民集三巻三号八八九頁)。
(3) 右の如く、一点一五円に換算して原告のうすき病院における昭和五八年三月七日より昭和五九年四月二〇日までの治療費を計算すれば、二七七万九、四八五円(室料差額及び診断書料、明細書料を含む。)となり、原告は、右金員の範囲内においてのみ、うすき病院に対し本件事故による治療費の債務を負担しているものというべきである。 (坂井良和)